“Go for it マレーシア教育移住日記”のブログにご訪問いただきありがとうございます。
前回の記事の《前編》では、私の次男のマレーシア留学の最後にA-Levelを選んだ理由と、A-Levelを選ぶべきか否かのボーダーラインについてお話しいたしました。
今回は、A-Levelを終えた次男の集大成の記事《中編》として、A-Levelの学び方、A-Levelを乗り切るためのメンタル、A-Levelに潜む突発的な落とし穴などについてお話ししたいと思います。
【#187】A-Level を修了し、次男のマレーシア留学は幕を下ろしました (中編) – 順風満帆とはいかなかった A-Level 修了までの道程
A-Level ファストトラックコースとは
次男は、エプソムカレッジのファストトラックコースに2022年1月に入学しました
次男が在籍した学年では、2021年9月からスタートするシックスフォーム(Year12)に、Year11から持ち上がりで進級してきた生徒と、外部からA-Levelを学びにエプソムに編入してきた生徒が学んでいて、次男が入学した2022年1月はちょうど2学期が始まる時でした。
ファストトラックを直訳すると“早道”ということになりますが、言わば“優秀な生徒向けの短縮コース”という主旨です。
通常なら2年間で修了するインター校のA-Levelを、ファストトラックでは概ね1年8ヵ月ほどで修了します。次男はファストトラックでエプソムに入学したので、Year12のレギュラーの生徒たちより1学期遅れてA-Levelに参加したことになります。
ファストトラックコースの対象となる生徒は、主にマレーシア・ナショナルカリキュラムでセカンダリースクールを修了したマレーシア人の生徒です。
このファストラックは、マレーシアの公立校や私立校といったローカル校でIGCSEと同等の卒業資格とされるSPM(Sijil Pelajaran Malaysia = Malaysian Certificate of Education)か、または他のインター校でIGCSEを優秀な成績で終えた生徒たちをエプソムのA-Levelに勧誘するためのスペシャルコースなのです。
そのため、ケンブリッジ式の進級時期となる9月開始ではなく、マレーシアのローカル校を12月に卒業した後の年明け1月からスタートするのが一般的です。
我が家の次男はマレーシア国籍でもなければローカル校出身でもないのですが、マレーシア国内のインター校でIGCSEを修了しているという条件が当てはまったため、ファストトラックへの入学が認められました。
一見、商業的なプロモーションにも見えますが、このようなファストトラックのプログラムを提供しているのはエプソムに限ったことではありません。
マレーシアでは、生徒の絶対数がインター校よりもローカル校のほうが多いため、それに比例して優秀な生徒の絶対数もローカル校に多いわけですが、ローカル校で成績優秀な成績を修めても家庭の経済的な事情で希望の学校に進学できなかったり、進学自体を諦めなければならないケースも珍しくないのです。
ファストトラックは、そのような環境にある志の高い子供たちに、奨学金によって学費の全額免除や一部免除によってA-Levelを学ぶ機会を提供し、将来を切り拓いてほしいという思想が根底にあるのです。
ファストトラックの入学要件は学校により異なりますが、SPMやIGCSEで一定水準の成績を修めていれば必ずしもマレーシア人に限るわけではないようなので、マレーシアでYear11(またはForm5)を卒業すれば条件にマッチすることがあります。
エプソムでは、入学後に「あなたはファストトラックだから参加できない」というような行事やイベントはなく、生徒としてのベネフィットはレギュラーの生徒とまったく同じです。
どこで学ぶかを考えた時、その環境は非常に大事ですが、その前に予算という制約があります。
限られた条件の中で、できるだけ子供に適した環境で学んで欲しいと思うが親心。
私から見て、次男はカレッジよりもインターナショナルスクールでA-Levelを学ぶことが適していると考えたこと、そしてエプソムのファストトラックなら奨学金で学費を大幅に抑えられるため、私たち家族にとって最善の選択となりました。
余談ですが、マレーシアでは極めて優秀な生徒には高校に入る時から企業が奨学金を与えて、学費を払ったことがないという生徒もいます。
マレーシアで最も優秀な生徒が獲得できると言われている奨学金制度はBank Negara Malaysia(マレーシア中央銀行)が提供しているスカラシッププログラムです。
✔︎ Bank Negara Malaysia Scholarships
https://www.bnm.gov.my/careers/scholarships
対象はマレーシア国籍の子に限られて諸条件はあるものの、生活費まで面倒見てくれます。この奨学金を受けた生徒は、学業を修了した後に奨学金をもらった期間の2倍の年数を Bank Negara で働くことが条件となっています。
過去にはこのプログラムで米国スタンフォード大学に入った生徒もおり、優秀な人材がマレーシア国外に流出しないようにしているんですね。
“自走する”に至った次男のターニングポイント
同学年には、同じようにファストトラックから入ってきた秀才くんたち、レギュラーコースでYear12に上がってきた裕福な家庭で育ってきた子たち、中にはイケメンで頭が良くてスポーツができてリーダシップもあるスーパーマンのような子や、ギフテッドと呼ばれる天才くんもいて、次男は彼らと机を並べて学ぶことで「俺って本当に普通だわ…」とよく言っていました(笑)
そこで次男は、この子たちを追い抜くことはできないけれど、追いかけて追いつくことはできるかもしれないと、彼らをペースメーカーにして必死に喰らいついて行こうと考えるようになったのです。
これこそ私の目論見どおりだったわけですが、「他者への尊敬の念が自分の刺激になる」という次男の性格が思ったとおりにハマり、周りの友人たちの高い意識や行動に大いに影響を受け、勉強に対する考え方が変わっていきました。
この“仲間から受ける刺激”が、今思えば大きなターニングポイントとなったと思います。
周りを知り、自分を知り、自分の考えや思考法を鍛え始めた時です。いま勉強することは、自分の将来を創る上で貴重な時間であることを認識したのです。
この頃から、「何時から勉強始めるの?」というフレーズを家の中で使わなくなりました。“完全に自走し始めたな…”と確信した時でもありました。
エプソムで学んだ最も大切なこと
エプソムはイベントだらけのボーディングスクールなので、毎日の生活の中にたくさんのイベントがあります。
次男はプリフェクト(生徒会役員)を務めていたため、様々な場面で先生との関わりが強くなりました。
エプソムは、いい意味で“人使いの荒い学校”です。日々の生活を運営していくために、生徒会役員には先生方からたくさんの指示が飛んできます。
でも、実はこれ、社会に出る前の素晴らしい訓練だなと私は感じていました。
先生、上級生、同級生、下級生から依頼されたことの本質を理解し、その任務を全うすること、相手の要望を読み解くこと、組織の中で与えられた役割に対してベストを尽くすこと、多国籍・多文化の環境の中で協調・協働することを、身をもって学ぶことができたのです。
そして、その行動をどこかで見ていてくれている人が必ずいて、称賛してもらうことも経験することができました。
学校は、生徒のウェルビーイング(Well-being)こそが、バランスの取れた充実した人生を作り上げるために最も重要であると考えています。これを理解して行動することこそ、身体的・精神的・社会的に良好な将来を作り上げることができるという考えです。
単にA-Levelの資格を取得することは、極論を言えば独学でもできます。
しかし、エプソムで過ごしたボーディング生活を通して、十代最後の貴重な時間に仲間と寝起きを共にし苦楽を分かち合うことができたことがどれだけ貴重な経験になったかと思うと、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
イギリスの大学への出願準備
学業面では、授業のスピードの速さに圧倒されつつ、なんとか必死に次男はしがみついて行きました。
そして慣れてきたのも束の間、夏のホリデーが終わり2学期が始まるとすぐにイギリスの大学出願(UCAS)という大仕事が迫ってきます。
✔︎ UCAS (The Universities and Colleges Admissions Service)
https://www.ucas.com/
UCASとは、イギリスの大学に出願する場合、各大学に願書を提出するのではなくUCASというシステムを通して一斉に出願するプラットフォームです。
イギリスの大学はUCASを通して最大5校まで出願できるというルールで、すべての書類をUCASのWebsiteにアップロードします。そして、合否の結果もUCASから届きます。
UCASの出願は、例年10月中旬から開始されます。つまり、入学を予定しているおよそ1年前には出願する必要があるのです。
次男は、2022年1月に入学して、9ヵ月後にUCAS出願というタイムスケジュールとなりました。
出願するまでに、自分がどこの大学に出願できるのかを見極め、志望校を絞り込み、出願できるだけの見込み成績(Predicted result)を取らなければならず、加えてパーソナルステートメント(志望動機書)と推薦状を用意しなければなりません。
パーソナルステートメントは、4,000字以内に収めたエッセイです。ファストトラックでは入学から半年後にこの出願準備が始まるため、“わぁ、初めての寮生活だぁ〜”なんてお気楽なことを言ってる暇はありません。
エプソムの先生方は、この部分のサポートがとても頼もしかったと思います。先生方はこれまでにたくさんの経験があり、その子のどの部分を強みとして最大限に表現できるのかを考え抜いて推薦状を書いてくださいました。
次男の場合、“英語で学んだ期間が短いにも関わらず、これだけの成長を見せた。それだけの潜在能力があり、目的に向かって成果を出せる力を持っている”という点に重点を置いた推薦状に仕上げていただきました。
このように、「英語で学んだ期間が短い」というウィークポイントを、むしろ強みとしてアピールポイントに変えるテクニックには驚かされました。
推薦状とパーソナルステートメントの作成は、夏休み前に先生と面談をして、その骨子を固めることから始まります。つまり、その時点で先生が“この子はどういう子か?”を知ってくれていることが肝心ということになります。
より良い推薦状に仕上げるためには、少しでもアピールポイントがあった方がいいものです。
この時、次男がプリフェクトとして学校の運営に貢献してきたこと、学校生活に積極的に取り組んできたことを先生が認識していてくれたことが、大きなプラス材料となりました。
ズバ抜けて成績が良い生徒は別として、ただ大人しく勉強だけしていたのでは特筆すべきことを書くことができず、印象が残る推薦状になりません。しかも、ファストトラックで入学した次男にはアピールするために十分な時間はなかったのです。
しかし、次男はプリフェクトという役割を通して、学校というコミュニティに貢献する機会を与えていただいたことが、自分をアピールするための大きな要素となりました。
A-Level の選択科目と日々の勉強
次男のA-Level科目
- Physics (物理学)
- Mathematics (数学)
- Further Mathematics (上級数学)
ガチガチの理系です。“なぜ私の子供が?”と思いますが、ここで各科目ごとにどのような勉強方法だったのかをご紹介します。
Physics (物理学)
授業では教科書は使わず、エクササイズ問題やA-Levelの過去問をまとめたWebsiteから抜粋した問題を使い、先生が解説してくれました。
そのサイトは、この2つです。
✔︎ Save My Exams
https://www.savemyexams.com/
✔︎ Physics & Maths Tutor
https://www.physicsandmathstutor.com/
次男に聞くと、とにかくひらすら問題を解き、多くの問題に触れたとのこと。
解らないことがあれば、先生に聞いたり、友達に教えてもらったり、寮ではそれがすぐに質問することができたそうです。熱心な先生で、夜もオンラインで教えてくれたり、メールにもすぐ答えてくれました。
Maths (数学) / Further Maths (上級数学)
テキストはほとんど使わず、教材サイトを使って授業をすることが多く、先生が作ったスライドで勉強することもありました。
✔︎ Dr. Frost Maths
https://www.drfrostmaths.com/
すべて教材はWebsiteではあるものの、試験はペーパー試験なので、紙に書いて解いていくことを次男は続けていました。次男は書くことが好きで、紙に書いて解いていくスタイルを最後まで貫いたので、印刷した過去問の紙は膨大な量になりました。
Photo: やり終えた過去問の束
勉強したい過去問(PDF)を寮長のメールアドレスに送って寮でプリントしてもらい、紙で問題を解くことを繰り返していきました。
A-Level の攻略法
“ひたすら過去問をやること!”
過去問から自分の弱点を探り、過去問から新しいことを学んでいく。過去問を進めるのが難しい場合は、A-Levelの問題に沿ったエクササイズ問題から始めてみる。大量の参考書も、アプリを使った演習も必要ありません。
ケンブリッジ、エデクセルなど、試験機関(Exam board)ごとにネットで公開されている問題を、ひとつひとつ確実に解けるようにしていくことに尽きます。
A-Level を乗り切るために必要なメンタルの強さ
次男がエプソムに入ってから、3〜4日の短いホリデーの際には、友達を連れて帰って来て泊まっていくことが多くなりました。
“和食が食べたい!”という日本人の友達を連れて来るのは分かるのですが、マレーシア人の友達が自宅に帰らず我が家に来て、また寮に戻っていくなんてこともよくありました。
Photo: 我が家に泊まりにきたマレーシア人の友達(右)と次男
“なんでこの子は自分の家がすぐそこなのに、家に帰らないんだろう…”と不思議に思っていましたが、将来有望な青年たちを手懐けるための“餌付け”だと思って、我が家のご飯をたくさん食べさせました(笑)
彼らも、“勉強しなければならない”という気持ちと、“少しは寮から出たい”という気持ちが入り混じり、リフレッシュしたかったのだと思います。
とはいえ、驚くのはその理性の強さ。楽しく夕飯をとり、お腹が満たされるとすぐにパソコンを取り出し勉強を始めるのです。“せっかく帰ってきたんだからゆっくりしたい”なんて言って、ひっくり返っている子はいませんでした。
そして、何時間も勉強し続けます。時々、談笑しながら、教え合いながら、スナックをつまみながら、寝るまでずっとです。でもその光景は自発的な行動で、嫌々でもなく、やるべくして無心でやっているように見えました。
“あぁ、これがA-Level生なんだな…”と、その自覚とプライドを見せつけられたような気持ちになりました。
そうは言ってもロボットではないので、試験が近づいて緊張感が増してくると、次第に心に余裕がなくなり、ランチタイムも大学の話に占拠されて、口から出てくるのは勉強の話ばかり。
「君が狙っている大学は入学要件がたいして高くないからいいけど、僕の大学は入学要件高いからさぁ〜」など、ライバル心を剥き出して嫌味っぽい発言をする子もチラホラ出てきます。
次男はそういう状況で、「みんながピリピリしだして余裕がなくなっているのが分かる。心の拠り所がなくなってしまったみたいでメンタル的にキツい…」と弱音を吐いたことがありました。
元々、対人関係でストレスを抱えるような子ではない次男がそう言った時、これは緊急事態だなと感じて、次の週末に自宅に帰ることを勧めました。
そのような殺気だった雰囲気に包まれ、試験直前に息切れしてしまう友達もおり、2年間かけて準備してきた大事な試験本番の直前でパンクしてしまうという例も耳にしました。
A-LevelにはIGCSEのように「Pass(合格)」も「Fail(不合格)」もありません。例えスコアが最低の「E」でも、Failではないのです。
IGCSEのように「Cさえ獲れれば合格だ…」という最低限の基準がないので、どこまでも上の成績を目指してやらねばならないという焦りの気持ちが生まれます。
A-Levelがスタートした時に「E」でもいいからA-Levelを終わらせたいと思っている生徒はいません。A-Levelをやると言うことは、みんな限りなく最高得点である「A*」を狙っています。全員が「A*」に向かって走る競走馬たちのレースなのです。
勉強だけでなく、そのレースで最後まで走り続けられる体力と忍耐力を兼ね備えた生徒だけが、自分の希望する進学先を選ぶことができるのです。
ちなみに、海外の大学を目指す場合、A-Levelのスコアが「D」以下では、その成績を有効に使うことができません。はっきり言うなら、「D」では入学を許可される海外の上位大学はありません。
A-Levelで「D」を取るくらいなら、A-LevelをやらずにIGCSEを有効活用して大学のファウンデーションコースに入るほうが、よっぽどその先の道が拓けます。
A-Levelは、タフで過酷なプログラムです。IGCSEと同じ程度の気持ちで向かうと、どこかで心が折れてしまうリスクを伴います。
本番を控えて周りの仲間たちの精神がストレスで追い込まれていく中、病むことなく自分を保って我が道を歩めるだけの精神的な強さが必要です。
私は息子を近くで見てきた親として、A-Levelに最も必要なのは成熟した精神だなと思います。
思いもよらなかった入院療養というアクシデント
UCASの出願も終わり、あとは本試験のためにトップギアに入れるだけという頃、次男は自然気胸で肺に穴が空き、緊急入院することになりました。
自然気胸は、痩せてる若い子に起こりやすい病態だそうです。
この時点で、次男はイギリスの大学1校の条件付入学許可(Conditional offer)、オランダの大学の条件付入学許可(Conditional offer)、オーストリアの大学の奨学金付入学許可をもらっていました。
しかしながら、オーストリアの大学以外は条件付入学許可です。出願した際の見込みの成績と同等以上の成績を本試験で取らなければならないので、この時点では確実に入学が保証されているわけではありません。
“なんでこんな時に…”と悔しがる次男を励ましながら、なんとか欠席日数を最小限に留めたいところでしたが、結局緊急手術をすることになったので、自宅療養も含めて約1ヵ月は学校から離れることになってしまいました。
試験機関では、このようなアクシデントを理由に勉強から離れていたことを考慮してくれる特別措置があります。
とはいえ、かなりのハンデを背負うことになりましたので、復帰後はこれまで以上に頑張って試験本番まで臨まなければなりません。
幸いなことに進路を大きく変更するほどのダメージを残さなかったのは、それまでの期間にしっかり基礎ができていたからだと思います。
明日、何が起こるかなんて誰にも分からない。先延ばしにせず、日々努力を積み重ねていくことの大切さに改めて気付かされた一件でした。
まとめ
次回の最後となる《後編》では、A-Levelの本試験、オランダの大学に決めた親子の決断、そして次男の今をお話ししたいと思います。
A-Levelはタフなプログラムなので、安易に進むのはリスクが伴う
試験前に突発的なトラブルも起こり得るので、日々の積み重ねが大事
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次回に続く
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